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【年頭所感】デフレ論議 一考日本格付研究所代表取締役社長 内海 孚
2013.01.04
 今回の総選挙ほど、デフレと金融政策に焦点が当てられたことは、国際的にも、また、歴史的にも例を見ないのではないか。これについて、少し頭を冷して考えてみよう。
 第一に、デフレの定義。1929年の大恐慌の後、1年で20~30%も物価が下落し、買い待ちが得だということになって、需要を停滞させ、経済の収縮を加速させ、更なる物価下落を招いた。こういうのが典型的なデフレである。年間0.5%というような下落は、誤差の範囲とも言える。これが消費者の買い待ち現象を招くとは考え難い。
 第二に、物価が金融政策で決定されるという幻想。民主党の公約に基づき実施された高校授業料の無料化によって、CPIは0.5%下落したとされる。また今年は、国産の米が値上りしたため、安い輸入米にかなりシフトしているが、市場開放が物価に与えている影響も無視できない。
 第三に、インフレ目標。インフレは、弱者を直撃する最も不公平な課税である。これを2%以下に抑えるというならまだわかる。また、金融政策は、インフレを抑制するという目的には、極めて効率的に作用する。しかし、このような金融引き締めは、企業活動、個人の住宅や耐久財の購入、国の資金繰りなどに深刻に影響することから、憎まれ役となる中央銀行は、政治から独立したものにしなければならないのだ。2%の物価上昇を目指すために、日銀の国債買い切りオペを増加させ、長期金利をゼロに近づけるということは、国民の預貯金を目減りさせるとともに、2%の消費税を課するというのと同じ効果のある政策だ。
 第四に、銀行部門への影響。日銀による国債買い切りオペによって、長短金利差が極小化し、銀行経営を困難にしているだけでなく、リスクを取る貸付を困難にする。他方、国債買い切りオペという異例な金融政策が慢性化したため、これをやめた途端に、国債の保有を膨らませている多くの銀行は破綻を余儀なくされる。その意味で、日銀は、既に、進むも地獄、止まるも地獄という蟻地獄にはまっているのである。この状況から、いかにしてソフト・ランディングしながら脱出するかが重要だが、政界からは、ニュアンスの違いはあれ、一層これを深刻化させる政策が揃って提言されているのである。
 第五に、財政への影響。長期金利が上がれば、国債費上昇を招き、財政が耐えられないという。しかし、国民の貯蓄や保有債券を仮に1,000兆円として、これに2%の金利がつけば、国民は20兆円の利子収入を得る。このうち、20%は源泉徴収されるから、4兆円は財政収入となることを考えると、財政負担増はかなり限定されてくる。
 それよりも、日銀の国債買い切りの恒常化は、財政の規律をこれまでも緩める作用をしてきたが、選挙中の各方面の提言は、そのリスクを深刻化させるものという他ない。
 一般的には、国家の形としては、「暖かい、しかし、税の重い国家」か、「冷たい、しかし、税の軽い国家」かのいずれかを選択するしかない。ところが、日本の現実は、極端に悪化した財政と急激な高齢化社会のため、「そんなに暖かくない、しかも、税の重い国家」という選択しかないのだ。これを国民に真剣に訴え、理解を得て行くことが出来ない政治家が、すべて日銀にツケを回そうとしているということなのではないか。