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【年頭所感】アベノミクスへの期待と不安 日本格付研究所 代表取締役社長 内海 孚
2014.01.06
安倍政権の発足は、20年にわたり日本を覆っていた閉塞感から国民を解放し、経済と国の将来についての期待を持つようにした。これが緒戦における最大の成功であったと思う。この20年の政治的、経済的混迷は、日本の国際的基盤も脆弱化させた。単に国際政治上のことだけではない。日本企業が国外でIRの会合を開いても人まばら―というような状況、日本は世界市場からも忘却のかなたに追いやられていた。アベノミクスは、国内外の人心を一変させた。
ただ、円安をここまで進行させたのも、日本株を押し上げたのも、主役は外国人投資家、特にヘッジファンドである。これに酔って、わが国の直面する厳しい現実に目をそむけてはならないだろう。
最近、米国の雑誌フォーブスが、「日本の失われた20年は本当だったのか」という記事を掲載している。1991年から2012年の間、日本の労働力1単位当たりの実質GDPの伸びは、先進国グループの先頭を行く米、独とほぼ同じようなペースを維持しているという指摘は、その通りなのである。労働人口が減少する以上、国としての経済成長率がこれを反映せざるを得ないという現実は直視せざるを得ない。
これに加えて、公的債務残高の対GDP比率が、最悪期にあったギリシャの二倍という最悪の財政事情がある。
次の衆院選は2016年12月、参院選は同じ年の7月、久しぶりに長期政権として政治に取り組める体制となった。この際、国民に、わが国の直面する厳しい現実を訴え、これから長い将来にわたって苦労を共にする共感が国民の間に生れるような空気をつくってもらいたい。
安倍政権の当初の成功は、国民を明るくするようなドラマをつくったことだ。一旦、ドラマづくりに成功すると、次々にこれをつくっていかないと崩壊してしまうというような心理に陥りがちなもので、国民に「バラ色の夢」を見つづけさせるために、ポピュリズムに走る危険がある。人口も労働力も減少しているわが国が、累積した財政赤字の地獄から脱出するのに、成長に依存するには自ずから限度があり、公的サービスの低下と増税という茨の道を往く覚悟を、指導者も国民も共有しなければならない。増税を含む財政の建て直しを後回しにして、現実離れした成長を追い求めた場合には、当初、アベノミクスを買いはやした外国の投機筋は、一斉に牙を向いて「日本売り」に転じて来ることに心して、足許を固めた政策運営を切望するものである。
2020年、東京オリンピックの誘致成功は、安倍政権のドラマ第二幕となった。まことに、強運と言うべきであろう。願わくは、アテネ・オリンピックの後のギリシャといった悪夢が、我々の現実とならないように、指導者も国民も、心をひきしめて、今後の厳しい挑戦に立ち向う必要があることが痛感される。