お知らせ

バーゼルⅢ適格Tier2商品に関する格付方法の変更を検討
2014.02.17
株式会社日本格付研究所(JCR)では、以下のとおり格付方法の変更を検討していますので、その概要と背景をお知らせします。
   
1. 概要
JCRでは、バーゼルⅢ適格Tier2商品(「B3T2商品」)の格付方法に関し2011年11月17日に公表した「バーゼルⅢ適格のTierⅡコンティンジェント・キャピタル商品の格付と資本性評価」(「現行手法」)の内容を一部変更することを検討している。現行手法公表後の約2年間における状況の進展、すなわち①バーゼルⅢに基づく自己資本比率規制に関する告示の改正②預金保険法(預保法)の改正③預保法関連政省令の改正案の公表などを通じ、わが国の金融機関等(預金取扱金融機関、銀行持株会社、保険会社、保険持株会社、証券会社、指定親会社など)の破綻処理制度におけるB3T2商品の位置付けや取扱いの明確化が進んできたことが、本件検討の主な背景にある。
B3T2商品は、関係当局が発行体につき実質破綻の状態にあると判断した時点で元本の削減または株式への転換(「元本削減等」)が行われる商品である。JCRではB3T2商品を含むハイブリッド商品について一般債務との間の回収可能性の違いおよび損失発生までの距離の違いに着目し、これらの違いを長期発行体格付からのノッチングとして反映させているところであるが、B3T2商品については回収可能性にかかるノッチング幅の目安をこれまでよりも縮めることを検討している。このような変更がなされた場合、B3T2商品の格付は通常、発行体の長期発行体格付から1ノッチ下となろう。
   
2. 基本的な考え方
わが国のバーゼルⅢ規制ではB3T2商品につき、発行体が実質破綻状態(point of non-viability, PON)に陥った場合に元本削減等が行われる旨を定めた実質破綻時損失吸収条項(PON条項)を備えることが原則として求められている。このようなB3T2商品につきJCRでは、PON条項が発動した場合の回収率が普通株のそれに極めて近く、場合によっては下回ることがあり、PON条項無しの劣後債・劣後ローン(「B2T2商品」)との間に回収率の差が生じうるという点に着目して、B2T2商品の期限付劣後債よりもノッチング幅の目安を大きく設定してきた。
B3T2商品とB2T2商品との間に回収可能性にかかるリスクの差が存在するという点につきJCRの見方は変わらない。しかし、13年6月に公布された預保法の改正内容と同年12月に公表された預保法施行規則の改正案などを踏まえれば、このようなリスクの差を現行手法のように追加的なノッチングとして格付に反映させる必要性は低いかもしれないと考えている。
このような判断は、PON条項が、発行体が債務超過の場合に発動する公算が大きいとのJCRの見方を反映している。改正預保法や預保法施行規則改正案を踏まえれば、PON条項は預保法の第102条に規定された第二号措置、第三号措置、および第126条の2に規定された特定第二号措置が講じられる場合に発動するとみられる。これらの措置は基本的には発行体が債務超過の場合に講じられる。債務超過の状態においてはB3T2商品の回収率は基本的にゼロとなる一方で、B2T2商品の回収率もまた極めて低いものとなり、両者の差は小さいとJCRは想定している。このような事態は、単体自己資本比率規制の対象とならない持株会社が発行体である場合に一層顕著になるとJCRは想定している。
第二号措置と特定第二号措置は、発行体が支払停止(特定第二号措置の場合は支払停止のおそれを含む)に陥る一方で債務超過は回避している場合においても講じられうる。資産超過の状態でPON条項が発動した場合、B3T2商品の回収率は基本的にゼロとなる一方、B2T2商品については倒産手続を通じた配当が債務超過の場合に比べ多くなるなどの可能性がある。しかし、B3T2商品を発行する自己資本比率規制上の国際統一基準行などにつき、資産超過の状態で第二号措置や特定第二号措置が講じられる蓋然性は非常に限られているとJCRはみている。預保法改正により、第126条の2で特定第二号措置とともに特定第一号措置が新設されたが、特定第一号措置は債務超過でないことが要件である一方で支払停止またはそのおそれに陥っている場合においても講じることができる。関係当局のこれまでの金融危機への対応などを踏まえれば、資産超過の場合は第二号措置や特定第二号措置よりも、PON条項が発動しないとみられる特定第一号措置が選択される可能性が高いとJCRでは現在のところ考えている。
また第三号措置については、債務超過と支払停止が要件となっているが、仮にこれが講じられた場合B3T2商品の回収率が基本的にゼロとなる一方、B2T2商品は引き続き元利払いを受けることが想定されうる。もっとも、第三号措置については債務超過でありながらB2T2商品も含めた広範囲の債務が結果的に保護されうる措置であることから、これが講じられる可能性は限定的にみる必要があるとJCRでは考える。また、とりわけ銀行持株会社、保険会社、保険持株会社、証券会社や指定親会社などについては、預金取扱金融機関と異なり、第三号措置の適用の対象となっていないことにも留意しなければならない。
   
3. ノッチダウンの目安
検討中の変更を実施した場合、金融機関等が発行するTier2商品の格付のノッチダウンの目安は下の表のとおりとなる。
   
*  表 わが国の金融機関等が発行するTier2商品のノッチダウンの目安

   
4. 今後の予定
本件検討は、預保法改正の施行など関連諸制度の状況を踏まえ、1ヶ月内を目途として完了させる。JCRが格付を付与しているB3T2商品である野村ホールディングスの第1回・第2回期限前償還条項付無担保社債(劣後特約及び条件付債務免除特約付)については、前述の変更が行われたとしても当該変更のみを理由として格付を変更するには至らないであろう。

(担当)炭谷 健志・宮尾 知浩


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