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お知らせ

金融機関等が発行するその他Tier1商品の格付方法につき検討
2015.01.29
株式会社日本格付研究所(JCR)では、投資家等のニーズを受け、金融機関等が発行するその他Tier1資本商品の格付方法の明確化を検討していますので、その概要等につき以下のとおりお知らせします。
   
1. 検討中の明確化の内容
JCRでは、金融機関等が発行する資本商品については、ハイブリッド商品一般と同様、原則として、損失発生後の回収可能性と損失発生までの距離に関する評価を、長期発行体格付からのノッチング(ノッチダウン)のかたちで反映させることで格付を行う。ただし、損失発生までの距離を総合的に検討し、ノッチング・ルールを適用するだけでは格付対象商品の元利毀損のリスクが表現しきれないと判断される場合は、格付記号の定義に即した格付を損失発生までの距離に応じ付与する。この場合、長期発行体格付と資本商品の格付のノッチ差が大きく広がることもありうる。
格付においてはまず、損失発生後の回収可能性に基づくノッチングとして、原則として1ノッチのノッチダウンを行う。次に、損失発生までの距離に基づくノッチングを行うがこれにあたっては、商品が備える複数の契約条項等(契約条項または法令の規定)のうち、発動までの距離が格付時点で最も近いとみうるものを特定したうえで当該距離に関する評価を反映させる。契約条項等の発動までの距離の評価では、まず①契約条項等が定めるトリガー水準の高低によりトリガー抵触までの距離を評価したうえで、次に②トリガー抵触までの距離が比較的近い(トリガー水準が高い)と判断される場合は、トリガー抵触が損失を発生させる契約条項の発動に結び付く蓋然性を評価し、これを加味する。契約条項等の評価と損失発生までの距離に基づくノッチダウンの標準的な幅は下の表のようになる。
   
※ 表 金融機関等が発行する資本商品の契約条項等の例とその評価
   
   
その他Tier1商品が備える複数の契約条項等のうち、普通株式等Tier1(CET1)比率5.125%未達をトリガーとする、いわゆるロートリガーの強制元本削減等を定めた契約条項等については、多くの場合トリガー水準が低く、発動までの距離が遠いと判断することになろう。これは、CET1比率規制の対象となるような比較的大規模な金融機関等の場合、CET1比率5.125%未満という水準は、発行体にとっても当局にとっても許容することが困難な水準であると考えられるためである。
その他Tier1商品が備える複数の契約条項等のうち発動までの距離が最も短いと評価されるのは、多くの場合、発行体が任意に発動できる任意利息配当停止の条項等と思われる。いついかなる場合でも発動を選択できるという意味で、トリガー抵触までの距離は遠いと言えない。一方、この条項等については、発行体の裁量を制約する要素が少ない場合、通常はこの条項等は発動されないことが多く、損失発生までの距離に基づくノッチング幅は1ノッチにとどめる。しかし、金融機関等の場合、各種の制度や当局の意向が利息配当停止の裁量を制約することがありうる。特に、所要の資本バッファーを積み立てられない場合に利益の一部または全部につき社外流出制限がかかる制度(「資本バッファー規制」)の対象であるような場合は、そうでない場合に比べて任意利息配当停止のリスクが高いとJCRはみており、このようなリスクを勘案して損失発生までの距離に基づく標準的なノッチング幅を2ノッチとする。
資本バッファー規制の対象であることが即、任意利息配当停止のリスクを大きく高めるとは言えない。発行体はバッファーの維持に常日頃から全力を注ぐとみられる。また、バッファーの積立不足の程度が大きくない場合は利益の一部の社外流出は認められる。金融機関等は概して資本商品間の支払面での序列(ヒエラルキー)を適切に維持したいという意向をもつとみられ、利益の一部の社外流出が認められる段階では、普通株配当を減額する一方でその他Tier1商品の利息配当は全額支払い続けるという対応をとる可能性は十分あるとみられる。その他Tier1商品の利息配当総額が比較的少ない現在のような段階ではそのような対応は一層とりやすいであろう。また、利息配当停止が投資家を遠ざけ発行体の資本充実をかえって妨げかねない点を、発行体も当局も考慮し、利息配当停止に慎重になるという可能性も無視できない。しかし、上述のような状況や対応が常に期待できるわけではない。資本バッファー規制はバーゼルⅢの国際ルールで導入されたばかりで、わが国では今後国際ルールに沿うかたちで告示等のかたちで法制化されると推測される。このような現時点で、バッファーの積立不足に際しわが国の発行体や当局がどのように対応するか、現時点では不透明である。また、発行体はバッファー維持に全力を注ぐであろうと先に述べたが、これを逆に言えば、実際にバッファーの積立不足が生じた場合には、発行体に相当なストレスがかかっている可能性がある。このようなストレスにはたとえば、発行体の大幅赤字、すなわち利益ゼロという事象も含まれよう。
上述の考え方を適用した場合、資本バッファー規制の対象であり財務内容等に大きな問題がない金融機関等が発行するその他Tier1商品の格付は、発行体の長期発行体格付から3ノッチ程度下となる場合が多くなろう。

2. 今後の予定
本件検討は1週間を目途として完了させ、その際により詳細なレポートを公表する予定である。検討の結果、見直しが必要となる格付は無いとみられる。

(担当)炭谷 健志・宮尾 知浩

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