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お知らせ

「ファンド信用格付け」開始のお知らせ【本サービスは現在、お取り扱いしておりません。】
2002.04.01
「ファンド信用格付け」開始のお知らせ

2002年4月1日

<「ファンド信用格付け」の視点>

 本年4月のペイオフ解禁を控え、投資信託等の集団投資スキームにおいては、これまで金融機関の預貯金が担っていた元本確保を目的とした低リスク型商品の開発が、個人投資家等のリスク回避選好に応える形で、今後ますます増加していくものと予想されます。

 こうしたニーズに対応して提供される金融商品においては、元本確保という目的に照らして、投資対象に関する基準等の「厳格な運用ルール」、その適確な実施を担保する「運用会社内におけるモニタリング及びリスク管理体制」、元本及び運用成果の保全を支える「バックオフィスの処理能力」などの点でスキームの堅確性が極めて重視されると考えられます。

 一方で、昨年11月に生じたMMFの元本割れという事態は、MMFがもともと元本確保を目的とした安定運用を行なう金融商品として広く認知されてきたものであっただけに、あらためて投資家の間で金融商品に内在するリスク情報に対する関心を呼び起こし、投資信託協会からもMMFの運用ルールを厳格化するために「MMFの安定性確保のための方策」(1月18日付リリース)が発出されることになりました。

こうした状況を踏まえて、JCRでは、今般、これまで培ってきた債券格付けや資産流動化商品格付けにおける手法を、金融商品に内在する信用リスク判断に応用し、「ファンドの信用格付け」として新たなサ-ビスの提供を開始することとしました。(ここでいう「ファンド」とは、投資家から金融サービスの提供者が受任した運用資金の元本確保を目的とする金融商品一般を指すもので、特定の商品カテゴリーに限定される性格のものではありません。)

 JCRの「ファンド信用格付け」とは、投資信託・投資法人など様々な形態のファンドを対象に、その運用プロセスにおいて安定性確保のために採用されている「運用対象に関するルール」「商品性」「運用会社の社内体制」「販売方法」等について、事前の定性及び定量的な項目に関する調査、並びに事後の定期的なレヴューによって行なわれるものです。

<ファンド信用格付けの記号と定義>

 「ファンド信用格付け」の記号と定義は、下表の通りです。このうちF-AAAからF-BBBの4つの記号については、格付対象となるファンドの運用対象、運用ルール、商品性、及びその他運用会社に関する情報等からJCRが総合的に判断したファンドの信用力がそれぞれ長期債務格付けにおけるAAAからBBBの「債務履行の確実性」と同等であることを意味します。また、F-Nの記号は、上記4つの記号のいずれにも属さないと判断される場合に付与されます。なお、当該格付けは格付対象ファンドの将来の価格変動を予想または保証するものではありません。

[表:ファンド信用格付けとその定義]

F-AAA ファンドの運用対象等に基づく信用力が、AAAの格付けを持つ債券と同等。
F-AA ファンドの運用対象等に基づく信用力が、AAの格付けを持つ債券と同等。
F-A ファンドの運用対象等に基づく信用力が、Aの格付けを持つ債券と同等。
F-BBB ファンドの運用対象等に基づく信用力が、BBBの格付けを持つ債券と同等。
F-N 上位等級のどの等級にも含まれない。

注)F-AA、F-A、F-BBBの格付記号には同一等級内での相対的位置を示すものとして、プラス(+)またはマイナス(-)の符号による区分があります。

<ファンド信用格付けの具体的判断ポイント>

 ファンド信用格付けは、担当者やファンドマネージャーとの面談等を通じて以下のような判断ポイントに基づいて行ないます。

・ 運用会社の運用業務全般の把握
・ トラックレコードの精査(新規に開発されたファンドの場合、運用会社から提出されたシミュレーションによるデータで代替する場合があります。)
・ 運用ルール(ファンドの運用対象に係る「残存期間」「格付け」「組入制限」など)とその遵守に関する方策
・ 商品性(解約方法、解約制限など)
・ リスク管理の状況(「平均残存期間」「デュレーション」などのポートフォリオ全体の数値情報、及び信用リスク情報のモニタリングとその実施状況、組織)
・ バックオフィスの状況(注文から約定の業務フロー、時価の取得状況、証券の保管状況)
・ コンプライアンス等の社内監査、外部監査などの実施状況及び直近の結果の把握
・ 販売政策(委託先名を含めた方法、販売のターゲット、マーケティングの重点など)
・ 投資家及び販売会社へのディスクロージャーの方法、頻度など      

また、上記ポイントについて具体的な運用状況に関するレヴューが、「ファンド信用格付け」が付与されている期間中、適宜(月次または一定期間毎)行なわれる予定です。

<市場リスクとの関わり>

 JCRでは「ファンド信用格付け」が表象する信用リスク情報が、一般的に金融商品の市場における価格変動ひいては市場リスクと密接な関係を持つものであると認識しています。しかし、「ファンド信用格付け」に際しては、ファンドの市場リスクのみに関する追加的な情報(例えば、ファンドに内在する市場リスクの大きさを表わす記号情報等)の提供は当面行なわない予定です。

これは、そもそも「ファンド信用格付け」の対象となる元本確保を目的としたファンドが、こうした市場リスクをリターンの源泉として積極的に追求する商品性を持つタイプではないとみられるからです。さらに、「ファンド信用格付け」そのものが、格付けプロセスを通じて当該対象ファンドに内在する市場リスクの管理状況をすでに織り込んでいる-換言すれば、上記でご紹介した「ポイント」から、JCRがある一定の「ファンド信用格付け」に値する、と判断したファンドがその運用上負うことが予想される市場リスクは、自ずと当該ファンドの信用格付けに応じたレベルに限定されることとなる、と考えることによるものです。

ただ、「ファンド信用格付け」は、ファンドというその個々の組入れ商品の市場価格より導きだされた「時価」が存在する運用商品に関して、投資家にとっての「元本の確保の確実性」「基準価格等の変動」に保証または一定の予想を与えるものでないことは、すでに「定義」のところで述べた通りです。

「ファンド信用格付け」は、ファンド運用の骨組みとも言える「運用の堅確性」に対する判断から、投資家に提供されている当該商品の信用リスク管理のレベルに関するJCRの意見、という位置付けであると考えます。

<他の「信用格付け」等との関係>

 「ファンド信用格付け」の対象となるファンドは資産流動化商品と比較しますと、資産流動化商品が事前の「契約」に基づき運用対象となる資産の特定から、具体的な現金の流れまでが事細かに規定されていることに対して、ファンドは一定の「運用ルール」の存在が前提になっているとはいえ、運用の受任者の裁量余地は資産流動化商品に比してある程度大きいことが相違点であると考えられます。

 また、各ファンドが投資家に提供する流動性(換金性)の度合いについて、予め各商品性の中で一定のルールが用意されているケースが多いと考えられ注)ますが、従来の債券格付け等の信用格付けと異なり、「タイムリーペイメント(約定通りのスケジュールで、元利金の支払が行なわれること)」の概念があてはまらないことも大きな相違点と言えます。これには、解約・払い戻しなどの事前にその時期を特定できない換金という手段が、ファンドに投資された資金の回収方法であるという理由による部分ではありますが、こうした換金時という任意の一時点での時価評価の変動による「元本の毀損」の可能性は、いかに信用リスク、金利変動リスクを限定する組入れ方針が堅持されていたとしても、否定できないものであると考えられます。

注) もちろん、各ファンドが投資家へ提供する流動性(換金性)については、一定のストレスを考慮した場合にも、その運用上齟齬をきたす余地がないかどうか、という観点から「ファンド信用格付け」においても重要なチェック項目の一つと考えられます。

<結び>

一昨年、1998年に改正されたばかりの「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律」が、投資対象の拡大を反映して、その名も「証券」を省いた形の「投資信託及び投資法人に関する法律」と再改正されました。

現在までに公表されているところでは、投資法人の形態をとる運用商品としては、既に東証に上場されているJ-REIT3社及び大証上場のベンチャービジネス証券投資法人のみに留まるようではありますが、運用の枠組みの拡大により、投資家のニーズに応じた新しい「資金運用スキーム」を用いた商品が今後投入されていくことは、想像に難くありません。

一方で、旧投信法が改正された98年には、「金融システム改革」の旗印の下、「SPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)」及び「債権譲渡特例法(債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)」が施行され、また投信法の再改正と同じ時期には、SPC法が「資産流動化法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律)」として新しいスタートを切りました。

こうした一連の法制度の整備により、金融サービスの基盤整備として政府が推進してきた「集団投資スキーム」(投資家から資金を集めて、市場で専門家が管理・運用する集団的な投資の仕組み)のもう一方の柱である「資産流動化スキーム」については、金銭債権のみならず、不動産の流動化等も含めて大きな発展を遂げつつあることはあらためて指摘するまでもありません。

ただ、当初の意図がどうであれ、「資金運用スキーム」と「資産流動化スキーム」という二本の柱が、投資家と資金の需要者を結び付けるという意味で、金融本来の持つべき機能を果たすために金融サービスの提供者によって自由な発想で利用されていくべきである、という点では共通の目的を持つものであることは間違いありません。JCRでは、今後この両者の性格をオーバーラップさせたかたちでの金融商品の開発が進み、市場に受け入れられていく可能性に関し、非常に有望な分野ではないかと考えています。

JCRは、すでに資産流動化商品について、様々なかたちの商品に格付けを行なってまいりました。

今回の「ファンド信用格付け」は、ファンドの「信用リスク管理のレベルに関するJCRの意見」という形をとることにより、「格付け」の対象こそ従来の信用格付けとは異なるものとなっておりますが、格付けに至る過程での仕組みに対する判断の基準に関しては、資産流動化商品及び債券の信用格付けにおける手法や視点を充分に活かしていけるものと考えています。

また、JCRでは、今後登場が予想される前記のような新しい「集団投資スキーム」に対する格付けの視点も、研究を続けていくと同時に、随時発表していく予定です。

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