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CSR(企業の社会的責任)の格付け上の位置付けについて
2004.12.28
CSR(企業の社会的責任)の格付け上の位置付けについて

2004年12月28日

 

1. CSRの企業経営上の意味 
   経済活動のグローバル化、情報化の進展、社会の成熟化等、企業を取り巻く経済社会が大きく変化しているなかで、企業に求められる責任は近年、益々高度化してきています。こうした環境変化を受けて、企業が長期的に持続的成長を遂げうるためには、直接利潤を生み出す経済的活動の側面ばかりでなく、顧客・消費者、投資家、従業員、地域社会といった多様な利害関係者(ステークホルダー)との間で調和をとりつつ経営を行っていくことが必要となっています。
 このようなステークホルダーを重視する企業行動は、欧米において「企業の社会的責任(CSR)」として提唱、普及されてきたものですが、近年、我が国においてもCSRに対する関心が高まってきています。その背景には、環境保護や雇用のあり方等に対する意識の高まりに加えて、企業不祥事の発生、製品・サービスの欠陥や事故等により、企業の経営状態に実際に大きな影響が及んだケースが頻発したことがあります。特に、最近は上場企業における様々な不祥事の発生が相次いでおり、改めて企業の社会的責任を問う声が高まっている状況にあると言えます。

2. CSRを巡る最近の動き
   こうしたなか、国際的には既に国連、OECD、ILO等がCSRに関する勧告・宣言や、基準類の発行・見直し等を行っていますが、04年6月に国際標準化機構(ISO)がSR*の国際的ガイドラインを策定することが決定されました(当該ガイドラインは、第三者認証を目的としないガイダンス・ドキュメント<指針>とすることとなっています)。
 我が国においては、日本経済団体連合会や経済同友会がCSRの考え方や行動指針をまとめているものの、産業界ではCSRの規格化に反対する意見が強くありました。ただ、今後はISOのガイドライン策定に際して、我が国としてどのように対応すべきかが問題となるとみられます。
 04年4月に経産省内に設置された「企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会」では、ISOにおける議論への対応を含めて検討が行われ、9月に中間報告書が公表されました。

*「社会的責任」を負うのは企業のみならず、あらゆる組織が負うべきであるとの観点から、議論の対象はCSRより一般的な「SR」となった。

3. CSRの格付け上の位置付け
   JCRでは、債務償還の前提として、何よりも企業が中長期的に存続しうることが重要であり、そのためには企業がCSRに継続的に取り組むことにより、リスクの低減、従業員の意欲向上、企業イメージやブランド価値の向上等を図っていくことが必要であると考えています。こうした考え方から、これまでも格付先の債務償還能力を判断するに当たってはCSRの観点を考慮してきました。例えば、工場事故や製品トラブル等の不祥事の発生を契機に法令違反や不適切な対応が明らかとなったケースにおいて、著しい企業イメージの悪化、ブランド価値の毀損等により企業の業績に大きな影響が及ぶと判断した場合には、JCRは即座に格下げ等の対応措置をとってきました。また、通常の格付けプロセスにおいても、格付先と消費者・取引先等のステークホルダーとの関係が良好に維持されているかどうかは、当該格付先の現在及び将来キャッシュ・フローに大きな影響を及ぼすものとして重要なチェックポイントとしてきましたが、これもCSRの観点を格付けに採り入れている具体例ということができるでしょう(JCR月報2004年11月号掲載論文「格付会社から見るCSR」参照)。
 今後は、JCRはCSRの重要性がますます高まってきている状況に鑑み、格付先への事前の質問やインタヴューにおいてこれまでより一層体系的かつ明示的な形でCSRの状況を調査し、その結果を企業の格付け審査に採り入れていくこととします。この点をやや敷衍して説明しますと、CSRの評価は一般にコンプライアンス、情報公開、雇用面での対応、消費者・顧客対応、環境対応、市民社会貢献への対応等の分野に区分して行われますが、これらのなかでも、債務償還能力に直接的かつ多大な影響の及ぶ可能性の高いコンプライアンスや消費者・顧客対応におけるリスクマネジメント、情報公開の各ポイントを重視し、それらに対する格付先の取組み体制やガバナンスの状況を、出来る限り肌理細かくかつ体系的に評価・判断していくこととします。これら以外のCSRに関する評価項目についても、勿論適宜調査の対象としますが、調査形式の体系化については今後の社会への定着度合いや企業行動への反映度合いをみながら検討していく考えです。
 なお、CSRが格付け判断に及ぶ影響度合い、及びCSRの取組みのなかで重視する具体的内容は、格付先の業種、業態等により異なり一様ではありません。この点については、個々の格付先の業種等の特性に応じてケース・バイ・ケースで判断し、その判断結果等は格付けに関するプレスリリースにおいて適宜言及していく考えです。

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