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親子関係にある子会社の格付け~トップダウンアプローチの考え方について~
2007.12.14
株式会社日本格付研究所(JCR)は、このたび、以下のとおり、親子関係にある子会社の格付けに関し、トップダウンアプローチの基本的な視点、考え方を整理しました。

1.背景
親子関係にある(*)子会社の主要な格付け手法には、子会社自体の評価を重視し、これに親会社の信用力を加味するボトムアップアプローチと、親会社の信用力をベースとして子会社の信用力を決めるトップダウンアプローチの2通りがある。実際の格付けにあたっては、個々のケースに応じどちらのアプローチを適用するか検討しているが、過去の事例を見るとボトムアップアプローチを適用したものが多くなっている。これは、親会社と子会社は別の法人格であり一般に一定の独立性が認められることや、経済合理性と必然性に乏しい子会社支援に親会社が慎重であると見られるとの考えを重視してきたことによる。
しかし、近年、企業経営において連結重視の方向性が強まっており、トップダウンアプローチを適用する事例が増加している。こうした動きの端緒のひとつは1997年に純粋持株会社が解禁されたことにある。さらに、2000年3月期以降、決算およびその情報開示も連結中心に移行し、その後、企業組織の再編に関連する法律が整備され、連結納税制度も導入されている。実際の企業活動においても、これらの制度を活用し、グループとして競争力を高める事例が増加している。特に、近年は、上場子会社を完全子会社化する事例や、TOBによる買収などの事例が目立っている。一方で、多くの企業が、事業の選択と集中を進める過程において、重要性の低い子会社については何らかの対策を講じている。また、会社法においても、企業集団としての内部統制が求められており、親会社は子会社と一定の距離を保ちながらも、相応のガバナンスを維持する必要性が高まっている。これに伴い、親会社が子会社のリスク管理に相応の責任を持つようになっており、子会社の信用力に対する親会社の影響力が増している。
これらの企業の活動実態を勘案すると、子会社自体の評価を重視したボトムアップアプローチではなく、親会社の信用力をベースとしたトップダウンアプローチを適用した方が適切と考えられる事例は、今後も増加すると見込まれる。このため、JCRでは、下記のとおりトップダウンアプローチについて、基本的な視点、考え方を整理した。
(*)親子関係にあるかどうかの判断は、会計基準のみに依拠することなく、実質的な関係をベースに行う。

2.トップダウンアプローチの基本的な視点、考え方
(1)主要なプロセス
実質的に連結子会社に該当する親子関係にある子会社の格付けにあたっては、原則トップダウンアプローチを適用する。その際、①親会社による子会社の支配・関与の程度、②事業の結びつきの強さ、③子会社がグループ全体に占める定量的な構成比、④子会社の信用力が低下した際に想定される親会社による支援の程度や内容-といった項目の評価を行う。この評価に基づき子会社の位置づけや重要度を判定し、親会社と子会社の格付格差(ノッチ差)を決定する。次に、親会社の格付け水準と、親会社と子会社のノッチ差から、トップダウンアプローチによる子会社格付けを決定する。
なお、この評価の過程で、トップダウンアプローチを適用しないと判断する場合もありうる。
(2)主要な評価項目
①親会社による子会社の支配・関与の程度
親会社が厳格に子会社の経営を管理し、親会社が許容できる範囲までリスクを抑制する体制が整備されている場合、その程度が強いほど、親会社と子会社のノッチ差が縮小すると考えられる。親会社による子会社の管理・支配については、具体的に、議決権割合による株主総会の支配、親会社のグループ管理規定、役職員の派遣状況、資金面での関与・支配度などによって判断する。
議決権割合が高いほど親会社の管理が強化されていると考えられる。議決権割合が100%でない場合、その他の株主の構成を勘案し、親会社の実質的な支配力を検討する。その際、必要に応じ、株主間契約の有無、非上場会社の場合には株式の譲渡制限の有無なども確認する。グループ管理規定では、親会社と同等、同質のリスク管理を行い、リスクを抑制できているか、事業計画や投資について親会社の承認を必要としているかなどといった視点から支配の程度を判断していく。また、取締役会については、親会社の出身者であるなど、親会社の意向を反映しうる取締役の構成比を通じ、支配の度合いを判断する。従業員の派遣については、その目的を把握し、親会社の支配強化に貢献するものであれば、その度合いに応じ評価していく。さらに、キャッシュマネジメントシステム(CMS)への加入状況や、親会社による子会社への融資枠の設定状況など、親会社と子会社の資金的なつながり、管理も判断要素のひとつとなりうる。

②事業の結びつきの強さ
親会社および親会社グループ(以下親会社・グループ)と子会社の事業の結びつきが強く、子会社が親会社・グループの事業戦略上重要な位置づけにあるほど、親会社と子会社のノッチ差は縮小すると考えられる。
実際の評価にあたっては、子会社の事業・機能が親会社・グループにとってどの程度必要不可欠であるかといった観点から評価をしていく。仮に子会社の存在がなくなった場合、親会社・グループの事業にどの程度の悪影響が想定されるか、他の企業による代替を想定した場合、円滑なオペレーション、時間、コストなどの点でどの程度の支障が発生すると予測されるかなどを勘案し、子会社の重要度、親会社・グループとの事業の結びつきを判断していく。
一方で、親会社・グループと子会社の事業の結びつきを弱める要素の有無も検討する。具体例として、親会社・グループと子会社の事業の関連性、シナジーが希薄であり、子会社が親会社から独立した経営を標榜している場合などがあげられる。また、親会社が子会社の取得と売却を頻繁に行っている場合や、法規制などの観点から親会社の関与が制限される場合も同様に考えられ、こうしたケースでは慎重に判断を行う。
また、事業上の結びつきの判断は、過去の実績や現状のみでなく、今後の展望も含めて判断する。このため、新規に設立した子会社や、買収によって取得した子会社など、これまで親会社・グループに対する寄与がない子会社の場合には、今後の戦略上の位置づけによって、事業の結びつきの強さを判断する。

③子会社がグループ全体に占める定量的な構成比
一般に、子会社の事業規模(売上規模、利益規模、資産規模など)が大きく、親会社・グループの中での構成比が高いほど、子会社の重要性、親会社と子会社の一体性は高まり、親会社と子会社のノッチ差が縮小すると考えられる。一方で、構成比が小さい場合は、その他の判断要素も勘案しつつ、慎重に判断する必要がある。


④子会社の信用力が低下した際に想定される親会社による支援の程度や内容
万一、子会社の信用力が低下した場合に、親会社が何らかの支援を行い、信用力を回復させる蓋然性が高ければ、子会社格付けは親会社格付けの水準に近づくと考えられる。この蓋然性の検討にあたっては、上述の①~③の要素に基づく判断などから、親会社の支援の意思を類推する。さらに、子会社の信用力低下時に必要とされる支援の規模と、親会社の資産、資金調達力のバランスなど、親会社の財務面での体力、支援の実現可能性を検討する。これらの親会社の支援の意思と実現性から、親会社と子会社のノッチ差を決定する。

⑤総合判断
①~④の事項を中心とし、法規制や競合他社動向を含む業界環境、個社特有の要因などを総合的に判断し、親会社と子会社のノッチ差を決定し、トップダウンアプローチによる格付け水準を決定する。

なお、子会社自体の評価を重視した格付け水準がトップダウンアプローチによる格付け水準を上回る場合は、子会社自体の評価を重視した評価を適用する。この場合、ケースによっては、子会社の格付けが親会社の格付けを上回ることもありうる。

3.今後の運用
JCRでは、今後、親子関係にある子会社を新規に格付けする場合、上記の考え方を原則とする。また、既存の格付けについては、順次、上記の考え方によって評価を行うべく、速やかに見直しを実施していく。

以上

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