• ホーム
  • お知らせ
  • 地方自治体格付けの基本的な考え方 No.3 -地方公営企業・第3セクターと地方債格付け-

お知らせ

地方自治体格付けの基本的な考え方 No.3 -地方公営企業・第3セクターと地方債格付け-
1999.11.30
地方自治体格付けの基本的な考え方 No.3 -地方公営企業・第3セクターと地方債格付け-

1999年11月30日

地方自治体の格付けを行うに際して検討すべきポイントは①地域の経済ファンダメンタルズ②地方自治体の財政力③地方自治体と中央政府の制度的な関係 ─の3点であることは、これまで2回(5.27および7.29付け弊社リリース)にわたり説明を行っている。以下では、地方自治体格付けの基本的な考え方の残されたポイントである地方公営企業および第3セクターを概観し地方自治体格付けの基本的な考え方についてのシリーズのまとめとしたい。

 
1. 公営企業と地方財政

地方公共団体は、教育、社会福祉、土木、消防など一般行政サービスの提供を行う一方で、水の供給、公共輸送、医療、下水処理など地域の生活に不可欠の公共サービスを提供する事業を行っている。これら事業のために地方公共団体が経営する企業を地方公営企業と呼ぶ。地方公営企業の数は、1998年(平成 10年)3月末現在11,346事業にのぼり、都道府県および市町村を合計した3,279の地方公共団体のうち99.7%が何らかの地方公営企業を経営している。これを事業種別にみると、下水道事業が4,173事業(36.8%)、水道事業3,678事業(32.4%)、観光施設事業799事業(7.0%)、病院事業747事業(6.6%)となっている。一般に規模の小さな市町村などでは上水道など1~2種に限られるが、都道府県・大都市では多様な事業が行われている。

地方公営企業全体の決算規模は、97年(平成9年)度決算において22兆2,300億円で、これは普通会計歳出決算額97兆6,738億円の23% に相当し、地方自治体の財政を検討する上で無視できない規模になっている。これを事業別にみると、下水道事業が7兆5,909億円で全体の34.1%を占め、以下水道事業5兆2,593億円(23.7%)、病院事業4兆6,617億円(21.0%)、宅地造成事業1兆8,034億円(8.1%)、交通事業 1兆5,546億円(7.0%)の順となっており、住民生活のライフラインである上下水、病院が大きなウエートを占めている。

地方公営企業は地方公共団体と異なり企業という独立した経営体として運営されている。経営に要する費用は、負担区分に基づき一般会計等が負担するものを除き料金収入により賄われており、個別採算主義、独立採算原則に基づき永続的な経営が行なわれることが想定されている。こうした地方公営企業の経営に必要な一定の要件を満たす設備投資等の資本的支出を賄うために、企業債の発行が認められている。企業債は、他の地方債と同様に起債についての議会審議および自治大臣の許可を要することとなっている。平成9年度末現在の企業債残高は52兆1,006億円と地方債現在高111兆4,964億円の46%にのぼる。分野別の企業債残高は、下水道事業26兆5,874億円が全体の51%を占め、以下水道事業11兆7,363億円(22.5%)、交通事業4兆 3,181億円(8.3%)、宅地造成事業3兆4,124億円(6.6%)、病院事業3兆634億円(5.9%)の5事業が全体の94.3%を占めている。企業債のうち一部は普通会計により負担されており、平成9年度末の企業債残高のうち22兆9,629億円が普通会計負担分となっている。

 
2. 都道府県別にみた公営企業

都道府県が行う公営企業は多岐にわたる。公営企業は地方公営企業法の適用の有無により法適用の公営企業と法非適用の公営企業に分かれる。法適用企業については、官庁会計と異なる発生主義による企業会計が用いられ、損益計算、貸借対照表が作成される。都道府県が経営する地方公営企業の数は、418(平成10年3月末現在)で、このうち237社が法適用企業である。これを事業別にみると病院が47事業で、以下工業用水(41)、宅地造成(35)、電気(33)、上水道(28)の順である。一方、181の法非適用企業のうち最も多いのは、下水道で74事業、宅地造成(43)、港湾整備(36)が続いている。県レベルは市町村と比較し医療、地域振興などより広域の公共サービスのウエートが高い。

表1は、都道府県別に公営企業債の発行の許可額(平成9年度)をみたものだが、許可総額9,623億円のうち地域開発が2,586億円で最大で、上水道(2,081億円)病院(1,718億円)がこれに続いている。上水道は市町村がそのサービス提供の担い手になることが一般的であるが、幾つかの都県では事業主体として起債を行っているため許可額も県によりばらつきがある。一方、病院や下水道などの事業ではほぼ全県で起債許可が与えられている。交通および地域開発については都道府県による差が大きいが、各団体の取組方針の差や経済発展の度合いのほか、政令指定都市など他団体との事業分担の違いなどが反映されたものと理解される。

47都道府県の公営企業債の発行残高(法適用、非適用合計)をみると、平成9年度末で12兆603億円となっている。これは企業債残高総額52兆 1,005億円の4分の1弱で、市町村25兆4,068億円、政令指定都市12兆3,922億円に次ぐ規模である。企業債残高は大都市圏の都府県とそれ以外とで差が大きく、2,000億円を超えるのは、東京(5兆3,448億円)大阪(7,189億円)千葉(5,215億円)埼玉(4,240億円)茨城(4,144億円)宮城(3,342億円)愛知(3,254億円)兵庫(3,215億円)広島(2,758億円)神奈川(2,718億円)の10都府県で東京が他に比較して残高が突出している。なお、公営企業債は経営主体別の分類であり、事業の性質による区分とは異なるため許可額ベースの金額とは必ずしも一致するものではない。

次にこれら10都府県を含む、公募債を発行している16団体の地方公営企業(法適用)の業況を概観することとしたい。表2は、「市場公募地方債発行団体連絡協議会」が取りまとめた団体別財政状況資料(平成11年10月)に掲載されたデータに基づき、企業会計の状況(平成11年度予算ベースの計数)をみたものである。公募16団体の地方公営企業合計の経常収益は2兆1,632億円に対し純損益は327億円の赤字となっている。一般に水道・工業用水事業が黒字なのに対し病院、開発、交通事業の赤字が目立つ。累積欠損金の合計は1兆3,545億円、このうち土地開発事業が5,278億円で交通(5,017億円)と病院(2,638億円)がこれに次いでいる。最も欠損金の多い東京は高速鉄道事業(4,944億円)、土地開発事業(5,179 億円)が大きく響いており、これに次ぐ大阪では病院、臨海開発などが影響している。

経常収益対比でみた累積欠損金の比率は東京(0.91)、大阪(0.66)のほか北海道(1.65)と福岡(0.77)が高いがいずれも病院事業の悪化によるものである。資本収支面では、東京の負担が大きく5,000億円の赤字を計上、企業債償還負担が大きいことと市場事業での資本支出負担が響いており、資本収支赤字に対する財源補てん後で補てん不足が生じている。

経常収支対比で企業債償還金負担の程度をみると、宮城(0.63)、茨城(0.35)が東京(0.32)を上回り、愛知・広島(0.26)、埼玉(0.25)、大阪(0.21)がこれに続いている。ただ資本収支の赤字幅の絶対額が財政による財源補てんで対応が可能な範囲に収っており、東京を除いていずれも補てん財源不足額は生じていない。事業分野別では、土地開発(0.99)、交通(0.47)の企業償還金負担が重くなっているが、水道(0.19)については経常収益との比較では、比較的バランスが保たれているとみられる。

3. 第3セクターの状況

地方自治体は、様々な形で民間企業と共同で事業を行っている。都道府県が25%以上出資・出捐する商法・民法法人および法定地方3公社(住宅供給公社、道路公社、土地開発公社)の合計は3,224社(平成8年1月1日現在)にのぼる。これら第3セクター法人は地方自治体とは別個の事業主体ではあるが、経営悪化により少なからず地方財政への負担を生じさせる場合もあり留意すべき存在である。

表3は、47都道府県が25%以上出資をしている地方公社とその業種分類および出資額を示したものである。業種別にみると、農林・水(453)が最も多く、以下社会福祉(345)教育・文化(271)商工(251)などで、これら法人の大部分は公益性観点から民間団体への出資を行ったもので、行政補完的な存在として位置付けられ、財政的な負担も一般的には過大ではない。一方、民活・リゾート法などの影響により地域振興のために行われた事業開発型の第3セクターは、事業規模や目的がそれまでと異なり、地方自治体の財政負担が大きなものが多い。地域都市開発や観光・レジャーなどへ自治体の財政負担は出資金の範囲にとどまらず、経営困難に陥ると株主・出資者責任として追加的資金負担が生じるケースも少なくないので注意が必要だ。

自治省では「第3セクターに関する指針」(平成11年5月)を公表、第3セクターの経営悪化に対する基本的な対応の仕方について、A(経営努力を行いつつ事業継続)、B(事業内容の大幅見直し等による抜本的な経営改善が必要)、C(深刻な経営難の状況にあり、経営の観点からは事業の存廃を含めた検討が必要)の3段階による点検・評価基準を打ち出した。第3セクターについて解散・清算まで視野に置いた指針を打ち出したことは、自治体の財政負担を限定的にとどめる観点からは有効である一方、従来自治体の支援という暗黙の保証に頼ってきた他の出資者、金融機関などに与える影響は小さくないものと思われ、自治体の対応にも十分な配慮が欠かせない。

第3セクターの業況の開示は、近時改善が進みつつあるとはいえ、外部のチェックが働きにくく十分でない面も依然多い。前述の公募債発行16団体の調査によれば、3公社および50%以上出資の株式会社86社のうち15社に繰越欠損金があり、うち5社は債務超過の状況にある。地方自治体本体に追加的な財政支援を行う余力がなくなっている現在、こうした企業の処理問題は大きな負担となっている。また個別に検討の必要はあるが、開発事業や土地公社には不動産の含み損があるとみられ、評価損を含めればさらに多くの第3セクター企業が事実上の破綻状況にあると推測される。

 
4. 格付けのポイント

地方公営企業や第3セクターの経営は基本的には各々の経営体自体の問題として自己完結するものと考えられるが、地方自治体格付けにおいて考慮すべきポイントとしては以下のような点があげられる。

①企業会計に対しては一般会計からの補助、出資などの資金支援が行われ、また第3セクターについても追加的財政負担が生じるケースが少なからず存在しており、これらの地方財政における負担の程度が適切な範囲であるのか

②繰越欠損、債務超過/資産時価評価などが潜在的に財政負担に与える影響とその規模

③経営が事業本来の目的の公益性に照らして適切に行われており、経営結果についての開示が適時、適切に行われていること

公営企業および第3セクターの経営状況の評価は、地方自治体格付けの3つのポイントである①地域経済のファンダメンタルズ②地方自治体の財政力③地方自治体と中央政府の制度的な関係のうち、②の財政力への負担の問題を検討する際に欠かせない。JCRでは実際の格付作業の中では上記観点からの公営企業、第3セクター企業の個別具体的な分析を踏まえて地方自治体格付けを行っていく。

(格付企画部次長 佐久間 裕秋)

PDF